第15章 離れていても君を想う
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あの後咲は、杏寿郎の手によって蝶屋敷へと運び込まれた。
そして今、その病室の一室にて療養している。
怪我自体は大したことは無かったのだが、杏寿郎が頑として離してくれず、半ば強制的に入院となったのだった。
杏寿郎はあの夜、近くで任務をこなしていたらしい。
その帰り道に偶然、倒れている咲のことを見つけたのだった。
「俺は…あの時全身の血が凍りついたかと思った」
ベッドサイドの椅子に腰掛けた杏寿郎が、咲の手を両手で包み込むように握りながら言った。
あれ以来、杏寿郎は日に一度は必ず見舞いに来る。
あの夜も大変な心配のしようだった。
抱きしめた咲を片時も離すことなく、仲間の隠が応急手当をしてくれている間ですら、咲を後ろから抱え込んでいた。
ひとまず応急処置が終わると、このまま蝶屋敷で療養だと言って、同行していた隠達には後から付いてくるように指示を出し、柱にしか出来ない速度で走り始めたのだった。
咲が何を言おうと「ダメだ。言うことを聞きなさい」の一点張りで、怒鳴ることは無いにしてもほとんど鬼気迫るような剣幕であった。
傷の大部分はかすり傷であり、体のあちこちに打ち身があったが骨折もしていない。
首の傷も、少し鬼の爪が刺さったという程度のものだった。
別に爪に毒性があった訳でもなく本当にただの創傷ばかりで、咲のことを運んでくれたと思しき鬼に食らわされた当て身の痛みも、一晩寝たらほとんど消えてしまった。
鬼相手にこんなことを言うのはおかしいが、かなり手加減をして優しくやってくれたようだった。