第15章 離れていても君を想う
「なんだお前?片足無ぇんだな」
首を絞められてもがいている咲の足元を見て、鬼は意外そうな声を上げる。
だが、ただそれだけのことだ。
別に咲の片足が義足になっていようがどうなっていようが、そんなこと鬼にはどうだっていい。
せいぜい、「食べられる部分が少し減っちまったな」くらいにしか思わないのだろう。
もがきながら咲は、腰にくくりつけてあった小刀を夢中で引き抜くと、思い切り鬼の腕を切りつけた。
「ぎゃっ」
思いがけない反撃に、鬼の手が咲の首から外れる。
鉄珍作の刀の切れ味はすばらしく、鬼の腕はまるで大根のようにすっぱりと切断されていた。
どしゃ、と川の中に落ちると同時に咲は立ち上がると、原っぱを抜けて再び森へと飛び込んだ。
「待てぇっ!!」
腕を切り落とされ、獲物にも逃げられ、その怒りからまさしく鬼の形相になったその異形の者は怒鳴り散らしながら追いかけてきた。
(早く!!早く!!走りながらでも香水をつけなければ!!)
ポケットから香水の小瓶を取り出そうとしたが、その時ドンッと背中に衝撃を感じて、先ほど川に落ちた時と同じように前のめりに咲は倒れ込んだ。
「てめぇぇ、よくも俺の腕を」
のしかかるように咲の背中に乗った鬼が、額に青筋を浮かべて見下ろしていた。
やはり、鬼の脚力に人間が、ましてや義足の者が敵うわけはない。
普段逃げきれていたのは、藤の花の香水のせいで一定の距離までしか近づけなかったからだ、と改めて思い知らされる。
ギリギリギリと頭を地面に押し付けられて、体の自由を奪われる。
(まずい、まずい…!!どうしよう、私が食われたら鬼殺隊に迷惑が…)
咲は土にめり込んでいく頭を必死に回転させて考えた。
その時だった。
ぎゃっ、という叫び声と共に、咲の背中に乗っていた鬼の胴体と首が泣き別れになって後ろへと吹き飛ばされた。