第15章 離れていても君を想う
〇
その日も咲は、届け物のため一人道を急いでいた。
辺りはすっかり暗い。
咲は稀血であることもあり、必要最低限なるべく夜は森に近づかないようにしている。
だが、やはり職務内容上必ずしもそのように出来るとは限らない。
鬼殺隊の活動は、基本的には夜間に行われるからだ。
雲一つなく晴れた夜で、月明かりも眩しいくらいだったが、それでも森の木々の下には引きずり込まれてしまいそうな暗い闇が広がっている。
咲が歩を進める内に、林が途切れ、広い原っぱに出た。
どうやら森は抜けたらしく、見通しの良い平らな大地を見て咲はひとまずホッと息をついた。
もう少しすれば人里に出る。
鬼と遭遇するのはひとけの無い森の中のことが多く、人が多く行き交う街中では、鬼が姿を現すことはほとんどない。
安心したら急に喉が渇いてきて、ふと見ると原っぱに細い小川が通っていることに気がついた。
月の青白い明かりに照らされた川は澄み切っていて、夜空の星が沈んでいるかのようにキラキラと美しく輝いていた。
咲が竹筒に水を汲んでいると、視界の端にフワリと小さな灯りが舞った。
「あぁ、もう蛍の季節かぁ」
顔を上げて見れば、川辺に生い茂った草の上で、無数の光が優しく明滅していた。
咲はしばし手を止めて、その幻想的な光景に見入る。
(そう言えば、実家の裏にもこんな小川があって、夏になると兄さん達と一緒によく見に行ってたっけ…)
と、幼い頃の幸せな思い出に浸る。
その時だった。
川向こうに、人影が立つのが見えた。