第15章 離れていても君を想う
「悲鳴嶼さんは元気だったかィ?」
さりげなく聞いてきた不死川に、咲はこくんと頷く。
「はい。皆さんお変わりなく、お元気でしたよ」
あえて、「皆さん」と言って、「玄弥も」とは言わなかった。
実のところ悲鳴嶼邸には、玄弥と悲鳴嶼の他に人はいない。
あの山奥の広い屋敷に二人だけで住んでいるのだ。
悲鳴嶼には玄弥の他に弟子はいないし、玄弥が細々とした家事も担っているから、身の回りの世話をする隠も置いていない。
だから「皆さん」と表現するのはいささかおかしいのだが、その微妙な言い回しに気づいているのかいないのか、不死川は細かいことは何も訊ねずに、「そうかァ」とだけ呟いた。
(あ…でも、何となく…)
不死川の横顔が嬉しそうに見えた。
もしかしたら気のせいかも知れない。
だがそれでも咲は、不死川が玄弥の元気な姿を思い浮かべていてくれたらいいな、と願わずにはいられないのだった。