第15章 離れていても君を想う
不死川と、弟の玄弥の確執については、咲も知っていた。
兄の後を追って鬼殺隊に入った玄弥に、久方ぶりに再会した実弥が言い放ったのは「俺に弟なんていねぇ。鬼殺隊なんて辞めちまえ」という無情な言葉だった、という。
それに、先日の柱稽古の際には、話しかけようとした玄弥に、実弥は問答無用で殴りかかり両目を潰そうとしたらしい。
炭治郎が止めに入って何とか事なきを得たらしいが、普段接している不死川からは想像もつかないような荒々しいエピソードに、それを聞いた時には咲も驚いた。
(この優しい不死川さんが、本当にそんなことを?)
不死川は、咲のことをまるで本物の妹のように可愛がり、何くれとなく気にかけてくれている。
赤の他人である自分にすらここまで優しくしてくれる人が、実の弟に対して何故そんな事をしたのだろう?
だが、いくら考えてみても不死川の真意などは到底分からない。
(…きっと何か理由があったんだ。だってそうじゃなきゃ、不死川さんが理由もなく玄弥さんにそんなことをする訳ないもの)
咲はチラリと、隣に座る不死川の様子を伺う。
おはぎを幸せそうに頬張っているが、どことなく、本当に僅かに、寂しそうな顔に見えた。
(不死川さんは玄弥さんが拳銃を使っていることをご存知なのだろうか?…もしかしたら、私の拳銃を見て、玄弥さんのことを思い出していたりするのかな…?)
考えすぎだろうか、と思ったが、咲は何だかたまらなくなってきて、つい口が動いてしまった。
「実は、銃の練習のために少しの間ですが、岩柱様のお宅でお世話になっていたんです」
「…へぇ」
もぐもぐと動いていた不死川の口元が、ほんの僅かな間だけ、瞬きをする間に見逃してしまいそうなくらいの刹那、動きを止めた。