第13章 小刀と拳銃
「上のお兄さんには、煉獄さんが似てるんだったよね?」
「は、はい。…あとは、さ、実弥さんです」
照れつつも、嬉しそうに咲が言う。
これから玄弥のところに行くので誤解を招かないように名前で言ったのだろうが、咲の口から「実弥さん」という単語が出るのは新鮮だ。
「そっかぁ、実弥さんもかぁ」
炭治郎もならってその呼称で呼びながら、「むむむむ」と内心腕組みをしていた。
先日、咲に誘われて、杏寿郎も含めた三人で活動写真を観に行った時のことを思い出す。
あの時に目撃した、杏寿郎が咲に向けていた包み込むような愛情に満ちた眼差し。
あれは明らかに「妹」に向けるような目ではなかった。
自身の恋愛もまだ経験していない炭治郎であったが、あからさますぎるその態度と、相手の感情すらも嗅ぎ分けてしまう彼の鋭敏な鼻をもってすれば、それを察するのは容易であった。
間違いなく、杏寿郎は咲に恋をしている。
それなのに咲は、どういう訳なのかそれに気づいている様子が無いのだ。
しかも、あの時交わした会話や今の発言内容から考えてみても、どうやら咲は杏寿郎のことを「兄」のように慕っているらしい。
決して勘どころの悪い子ではない。
むしろ人の些細な動きからでもその感情を読み取って、細やかに配慮のできる優しい子だ。
それが一体何故なのだろうか、と炭治郎は内心、頭を抱えた。
杏寿郎の咲への好意は明らかだ。
かなり態度や表情に出やすい人だから、気づいているのはおそらく自分だけではないだろう。
それなのに、ここまで気づいてもらえないというのは、あまりにも杏寿郎が不憫だ。
杏寿郎のあの顔を見たとき、全力で応援してやりたいと思った。
だからここは一つ、第三者が背中を押してやるべきなのではないだろうか……と、慣れないことで炭治郎が頭をひねりにひねっている内に、二人は悲鳴嶼邸に到着してしまったのだった。