第2章 逢魔が時
杏寿郎がズンズンと廊下を進み、角を曲がって玄関に出ると、そこには咲の姿があった。
たたきにはすでに杏寿郎の草履が用意されており、その横に咲は膝をついて待っていた。
それを見た杏寿郎は足早に近づいていくと、
「咲」
と炭治郎達の前では決して出さないような穏やかな声で呼んだ。
「辛いだろう。無理はしなくていい」
杏寿郎は咲の腕をそっと掴んで立ち上がらせた。
傍らに置かれていた松葉杖も一緒に掴み上げ、咲の脇の下に差し込んでやる。
小柄な咲は、首を伸ばして見上げるようにして杏寿郎の顔を見た。
「もう、ご出立ですか」
「うむ。どうやら一般隊士の手にはあまる鬼が出たようでな」
「そうですか……。行ってらっしゃいませ、どうぞご無事で」
少し眉を下げて言う咲の顔を見下ろして、ふにゃりと杏寿郎の顔が緩む。
「ありがとう。だが心配するな。俺は柱だぞ」
それから杏寿郎は慈しむような優しい手つきで咲の頭を撫でた。
「ゆっくり話せなくて残念だ。君も息災でな。また家に遊びにくるといい」
「はい」
咲が笑顔を浮かべるのを見て、杏寿郎もまた笑みを浮かべた。
「行ってくる」
そう言うと、杏寿郎は闇の中へと飛び立っていった。
玄関先に立った咲は、夜空を見上げながら、
「ご武運を」
と小さな声で呟いたのだった。