第13章 小刀と拳銃
炭治郎が立ちふさがっているせいで、鬼は状況を見極めようとしているのかそれ以上近づいてこようとしない。
不毛な膠着状態が続く。
不意にカチャンという音がして、炭治郎がチラリと横を見ると、真後ろにいたはずの咲が隣で鬼に銃口を向けていた。
「炭治郎さん、私が鬼を引き付けますからその間に」
そう言って咲は拳銃の取っ手を握り締めると、ググッと引き金を引いた。
バァン
と、その小さな拳銃が立てたにしては大きすぎる音を鳴らして、短い銃口から弾が発射される。
だがそれは正面に向かっては飛ばず、上向いてしまった銃口のせいで、空高く打ち上げられたのだった。
鬼はその弾を目で追うかのようにしてポカンと空を見上げている。
その一瞬の隙を逃さずに、炭治郎の一太刀が鬼の首を跳ね飛ばしたのだった。
鞘に刀を収めている炭治郎に向かって、咲は深々と頭を下げた。
まだ拳銃の銃口は熱を帯びていたが、すでに咲の腰元のホルダーに仕舞われている。
「炭治郎さん…、やっぱりついて来てくださって、ありがとうございました。助かりました」
「ううん。咲が無事で何よりだよ」
炭治郎は、すぐ傍らでバサバサと崩れていっている鬼の身体をチラリと見下ろした。
「それにしても咲は本当によく襲われるなぁ。今まで無事だったのが不思議なくらいだよ」
「しのぶさんの香水のおかげです。これがあるから、鬼は私に触れることが出来ません」
「でも、いつも怖いだろう?」
炭治郎は、先ほどぎょっとして肩を震わせていた咲の横顔を思い出しながら言う。
「…正直なところを言えば、そうです。でも私は…隠として少しでも剣士さんの役に立ちたい。…いつか仇のあの鬼を倒す時にも」
普段は丸い、黒目がちな瞳をキュッと細めて咲は言った。