第13章 小刀と拳銃
な?と小首を傾げられてしまってはもう、咲も断ることは出来なかった。
それに、ただ遠慮していただけのことで、別について来て欲しくない訳ではない。
むしろ本当の事を言えば、炭治郎が一緒にいてくれるのなら非常に心強かった。
慣れているとは言え、やはり森の中で鬼に出くわすのはびっくりするし、駆け回っている時は、もしも今義足が外れてしまったらどうしよう、などという不安がいつも頭をよぎるからだ。
「ありがとうございます、炭治郎さん」
咲がポソリと小さな声で言う。
その僅かに俯いた顔が、在りし日の弟や妹がたまに見せた少し照れながらも嬉しさを隠せない表情にそっくりで、炭治郎は思わず咲の頭を撫でてしまったのだった。
咲と炭治郎は森を行く。
山奥にある悲鳴嶼邸へは山をいくつか超えていく必要があるので、訪ねるのも一苦労なのである。
そして案の定、炭治郎の心配は的中した。
二つ目の山を超えたところで、彼らは鬼に遭遇した。
辺りはすっかり薄暗くなってきていて、背の高い木々に埋もれた森の奥には、沈みかけている夕日も届かなくなっていた。
ガサッとおもむろに茂みから飛び出してきた鬼に、咲はぎょっ、と目を見開く。
炭治郎がいち早く匂いを察知して教えてやっていたから心構えが出来ていたようだったが、普段はこれが突然やってくるのだからさぞや恐ろしいことだろう、と横で見ていた炭治郎の胸はきゅう、と痛んだ。
咲を庇うようにして炭治郎は鬼の前に立ちふさがる。
今回の鬼も、毎度現れる鬼と同じように、咲の放つ匂いに引き寄せられて来たのだと言った。
藤の花の香水のせいで、せいぜい近づけるのは2メートル程度までであるというのに、どうしてこう引き寄せられてきてしまうのか。
どうせ触れることも出来ないのだから、いっそ襲ってこなければいいのに、と炭治郎はつい思ってしまう。