第1章 稀血の子
その鬼は、逃げ惑う私の後ろからニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべながら、ゆったりとした歩調で追いかけてきた。
ゆっくりと歩いているはずなのに、どうしてなのかどんどんと距離が縮まっていく。
「おーい、どこまで逃げるんだぁ?いい加減、鬼ごっこも飽きてきたんだけどなぁ」
少し退屈そうな声を上げて、鬼がぐぐっと背伸びをした。
「あ、”ごっこ”じゃねぇよなぁ。俺、鬼だから」
次の瞬間、鬼は信じられないような速さで飛んできて、爪の鋭く伸びた大きな手でガシッと私の右足を掴み上げた。
へへへ、と自分の言葉に笑いながら、その手は易々と私の体を逆さ吊りにする。
尋常ではない力に、恐怖のあまり私の全身の筋肉は硬直した。