第13章 小刀と拳銃
わぁーっ、と炭治郎は手近にあった木に、まるで猿のような素早さでよじ登った。
その木の幹に、ガッガッガッと鋼鐵塚は出刃包丁を突き刺し続けながら、「許さんっ!!お前は万死に値する!!死ね!!」などと絶叫している。
「あ、あわわわ…」
目を疑うようなショッキングな場面に、鋼鐵塚とは初対面である咲は言葉も忘れてその場で震えていた。
そこへ、凛々しい眉毛が特徴的なひょっとこ面を被った子どもが現れた。
「あ、もしかしてあなたが咲さんですか?初めまして、僕は小鉄と申します。あなたの武器の制作を担当しました!」
その少年は、鋼鐵塚の凶行が目に入っていないのか、場に全くそぐわない明るい声で話しかけてきた。
「えっ!あっ、はい、隠の兎田谷蔵 咲と申します」
あまりにも自然な声かけに、びっくりしつつも咄嗟に答えてしまう咲。
「やっぱり!さぁさぁ、どうぞこちらへ。もう完成してますんで、早く見てください!」
子ども特有の無邪気さで咲の手をぐいぐいと引っ張ってくる小鉄に、咲もとまどうばかりだ。
「あっ、あのっ、あの方は……」
そう言って咲が、狂人のように荒れ狂う鋼鐵塚をこわごわと見やると、小鉄も続いて視線を向けた。
「あぁ、あの人は鋼鐵塚さんですよ。あの方も咲さんの武器の担当者です。僕と共同で作ったのです」
「い、いえ、そういうことを聞いているのではなく、あの、あれを止めなくてよいのですか?」
いまだにガッガッと包丁を木に突き刺し続けている鋼鐵塚。
だが小鉄は、はっ、と鼻で笑った。
「いいんです、気の済むまでやらせておけば。大方炭治郎さんがまた刀を傷つけてしまったのでしょう。だから鋼鐵塚さんが狂人の如く怒り狂っているのです。あの人は刀を何よりも愛する変人だから」
あっさりと、しかもかなりの毒舌で言ってのけた小鉄に、咲は呆気にとられるばかりだった。