第13章 小刀と拳銃
何人もの隠に次々と引き継がれながら、もう随分と時間が経ったのではないかと咲が思い始めた頃、スポンと耳栓が抜かれ、明るい声が言った。
「到着しましたよ」
すぐに目隠しが外され、咲達の目の前には、ゴツゴツとせり出した岩の合間に挟まるようにして建てられた、背の高い軒並みが広がっていたのだった。
「わぁ」
咲が感嘆の声を上げる。
「そういや、咲は里に来たのは初めてだったな」
「ここはとっても気持ちの良い温泉もあるんだぞ」
後藤と炭治郎が口々に言う。
二人はすでにこの里を訪れたことがあるようだった。
「じゃあまずは、里長の鉄珍様のところへ挨拶に行こう!」
勝手知ったるといった様子でズンズンと歩き始めた炭治郎と後藤の後を追うようにして、咲も歩き始めたのだった。
「ほほ、炭治郎くん、久しぶりじゃの。変わりはないかい?」
「はい!鉄珍様もお元気そうで何よりです!」
目が上を向いているとぼけたひょっとこの面を被った小柄な老人に向かって、炭治郎は元気よく挨拶をすると、ゴン、と畳に額がぶつかるほどに深々と頭を下げた。
その後方に控えていた咲と後藤も、炭治郎ほどではないにしても丁寧に頭を下げる。
隠がこのようにして里長に挨拶をすることは、まず無い。
何しろ隠はこの里に何名も常駐しているし、その入れ替わりも激しい。
それをいちいち挨拶していたのでは、里長の時間のほとんどを奪ってしまいかねない。
だが今回ばかりは、たまたま炭治郎と一緒に来たということと、二人の用向きのせいもあってこのように挨拶申し上げることになったのだった。
「そちらの可愛い子が、咲かの?」
「は、はい。お初にお目にかかります、隠の咲と申します」
「うむうむ。お館様からの依頼を受けて、そなたの刀を担当したのはこのワシじゃ。ワシは若くて可愛い女の子が大好き」
ひょっとこの面をしているはずなのに、その顔がニコニコと笑ったように見えて、咲は思わず数回瞬きをする。