第12章 雨宿り
「!」
隣に座るだけかと思っていたので、思いがけず抱き寄せられて咲は胸が弾けてしまいそうなほど驚いた。
「もっと俺にくっつくと良い。ほら、こんなに手が冷たくなっている。風邪でも引いたら大変だ」
そう言って杏寿郎は咲の肩を抱いているのとは反対側の手で咲の小さな手を包み込むように握り、親指の腹でスリと撫でた。
肩を抱く腕にもさらに力が込められて、咲の体は杏寿郎に寄りかかってピッタリと密着するような格好になる。
(え、ええ、え)
まるで恋人同士が取るような行動に、咲は狼狽した。
ドッキン、ドッキンと全身が心臓になってしまったのではないかと思うほどに、鼓動の音がうるさい。
(わ、わああぁ、杏寿郎さんがこんなに近くに…)
きっと今の自分の顔は木苺のように真っ赤になっているに違いないと思い、咲は恥ずかしさで深く俯いた。
俯いた視線の先に、自身の手を包み込んでいる杏寿郎の手が見えた。
大きくて、分厚くて、少し乾燥しているけれど、温かくて心地の良い手。
肩に置かれた手からも、シャツの上からじんわりとその温かさが伝わってくる。