第12章 雨宿り
山小屋は無人で、しばらく人が使っていなかったことを伺わせるように少し荒れていた。
だが幸いなことに囲炉裏があり、小屋の隅には乾燥した薪や木の枝が打ち捨てられていた。
「やぁ、助かった」
杏寿郎は嬉しそうに声を上げると、羽織でくるまれてまるで繭のような状態になっている咲を床にそっと下ろし、囲炉裏に火を起こし始めた。
少しすると、パチパチパチと火の燃える音がし始め、寒々しかった小屋の中に温かな光が点った。
火を起こし終えた杏寿郎は囲炉裏の前に腰を降ろして、ふう、と一息つくと、いつの間にか羽織から這い出して、濡れた羽織や隊服の上着などを干している咲に目をやった。
任務の邪魔にならないようにと肩より上に切り揃えられた黒い髪が、雨に濡れてツヤツヤと輝いている。
上着を脱いでシャツ姿になった咲は、さらに小柄に見えた。
袖まくりされたシャツから覗く白い腕は、いつもよりも血の気を失って青白い。
「寒いだろう咲。早くこっちへおいで」
そう言って杏寿郎は、片手を大きく広げて咲を呼んだ。
「は、はい」
振り返った咲は、囲炉裏の前に座る杏寿郎の、ふっくらとした形の良い唇がオレンジ色の炎に照らされているのを見て、少しソワソワとしながら隣に座った。
その途端、咲の肩を杏寿郎が、がっしりと抱き寄せた。