第12章 雨宿り
そう思って、常人よりも遥かに良い視力を目一杯駆使して辺りを探っていた杏寿郎は、木々の隙間に山小屋のような建物を発見した。
「あそこに小屋がある。少し休ませてもらおう」
そう言って杏寿郎は羽織を脱ぐと、咲の頭からすっぽりと被せてぐるぐる巻きにし始めた。
「むっ?」
目元だけを残して口まであっという間に羽織で包まれてしまった咲は、モガモガと言葉にならない音を発したが、それに対して杏寿郎はへにゃりと眉を下げて笑っただけだった。
「少し濡れているが我慢してくれ」
咲のことを簀巻きにし終わった杏寿郎は、その体を胸の前で抱え込むようにして抱き上げると、雨の下へと駆け出した。
ザアアア、と激しい雨が杏寿郎の体を打つ。
咲の目の前で、雨水を滴らせながら揺れる杏寿郎の金色の髪。
雨粒が頬を伝い、顎からポタポタと流れ落ちていく樣までが克明に見えた。
下から見上げるようにして見た杏寿郎の顔は、4年前、鬼に襲われていたのを助けてもらった時よりもさらに凛々しく逞しくなっていた。
体に回された腕の力強さ。
咲は、鼻まで覆われているせいで濃厚に感じる杏寿郎の匂いの中で、ドキドキドキと滑稽なほどに心臓が大きく脈動するのを感じていた。