第12章 雨宿り
その金色の髪の毛の、燃えるような赤い先端からポタリポタリと水が滴っている。
「あぁっ!まずは杏寿郎さんが先に拭かないと」
慌てて咲は、杏寿郎が差し出していた手ぬぐいを取ると、彼の頬や髪をポンポンと優しく拭き始めた。
「ん…」
杏寿郎は目を閉じて、気持ちよさそうに咲のなすがままになっている。
その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいて、とても穏やかな表情だった。
だが彼はすぐに咲の手から手ぬぐいをスルリと抜き取ると、今度は咲の顔を拭き始めた。
「わ、私は大丈夫ですから…」
頬に大きな手を添えられて、咲はドギマギしながら杏寿郎に言う。
「おとなしくしていなさい。体が濡れていては風邪をひいてしまう」
「っくしゅ!」
杏寿郎がそう言っているそばから、咲は小さなくしゃみをした。
「むう!いかん!」
どこかに休める所は無いか、と杏寿郎はキョロキョロと辺りを見回した。
普段から体温が高めで天然の湯たんぽのようだと言われている自分は、多少雨に濡れたところでどうということもない。
だが、肉が薄く小柄な咲は雨によって体の熱を奪われてしまっているのではないかと心配になったのだ。
彼女も隠として鍛錬を重ねていることは重々承知しているが、やはり女性が体を冷やすのは良くない。