第12章 雨宿り
善逸と共に宇髄邸を後にした咲は、次の任務へと向かうため山道を一人歩いていた。
空はどんよりとした灰色で、雲が立ち込めているせいかいつもよりも低く見えた。
「やだなぁ、雨降ってきそう」
咲がそう呟いた時、ポツリと雨粒がまつ毛を打った。
ポツ、ポツ、ポツポツと落ちてきた雨粒は、あっという間にその間隔を早めて、見る見るうちに辺りが真っ白になるほどの大雨になってしまった。
「わぁっ」
慌てて咲は駆け出すと、咄嗟に目に入った大木の陰へと飛び込んだ。
「降ってきちゃった…」
この様子ではどうやらしばらく足止めを食らってしまいそうだ、とため息をついて、咲は一瞬でずぶ濡れになってしまった帽子と顔布を外し始めた。
「これを使うといい」
突然、横からぬっと手ぬぐいが差し出されて、咲はびっくりして飛び上がる。
「杏寿郎さん!!」
大人の腕でも回らないほど太い幹の向こうから、ひょっこりと杏寿郎が顔を出していた。
「奇遇だな、咲!」
「本当ですね!すみません、気がつかずに失礼しました」
「なに、俺もたった今ここに来たところだ。おそらくこの木の下に飛び込んだのはほとんど同時だったのだろう。しかしすごい偶然だな!こんなに広い森の中、同じ木の下に飛び込むとは」
はははは、と、愉快そうに杏寿郎は笑った。