第2章 逢魔が時
「そしてその鬼だが……、奴は未だこの世界にとどまり続けている」
「え……」
「あの時鬼を取り逃がしてしまったこと、一生の不覚。だから俺は何としてでも、この手で討ち果たすと心に誓っているのだ」
組んでいた杏寿郎の腕がわずかに解かれて、血管の浮き出た大きな拳がギュウッと握り締められるのが見えた。
「あの子は」
そこで、今度はしのぶが口を開いた。
「鬼に右足の膝から下を齧り取られました」
炭治郎達がしのぶの方に目を向けると、彼女はいつもと同じようにニコニコと微笑みを浮かべている。
だが、その目は明らかに笑っていなかった。
「いいですか?鬼に喰われたんですよ?」
なぜ何度も同じことを言うのだろうと不思議に思いながらも、炭治郎達は頷く。
それを見て、しのぶの目がわずかに細められた。
「意識のある状態で、です」
その瞬間、炭治郎の脳裏には鬼に惨殺された家族の姿が浮かび、ギュウウと心臓が締め付けられるような気がした。
「想像を絶する苦痛と恐怖だったことでしょう。それでもあの子はそれを乗り越え、血の滲むような努力をして隠になった」
まるで幼い子どもにやるようにして、しのぶは噛んで含めながら三人に言う。
「そんなあの子を馬鹿にするような発言は、今後一切禁止します」
ニッコリと美しい頬笑みを浮かべて、しのぶは最後の止めを刺した。