第11章 倒したのお前やで
善逸は、目を覚ましている時はあの通りのビビリで泣き虫で、てんで頼りにならなさそうに見える。
だが、ひとたび眠りにつくや、とんでもない力を発揮するのだ。
酔拳ならぬ、睡拳だ。
以前、任務で共に戦った時にその様子を初めて見た宇髄は、さすがに目を疑った。
だがそんなことがその後も何度も続き、ようやく宇髄もその不可思議な現象を認めたのだった。
善逸は眠っている時は強くなる。
いや正確には、恐怖心から解き放たれて、善逸が本来持っている身体能力の高さが発揮されるようになるのだ。
善逸はその生い立ちのせいで、今まであまり人から認められてこなかった。
その自信の無さが、本来持っている善逸の素晴らしい才能を押さえ込んでしまっていたのだろうと、宇髄は推測していた。
バッと、鬼が走り出す。
「ヒッ!!!」
突然走り出した鬼を見て、善逸の体が痙攣したように跳ね上がる。
どんどんと迫ってくる、だらりと舌を垂らした鬼の顔。
「ウッ、ギャアアアアアアアアアァァァ!!!!あ゛っ…」
山中にこだまするかのような大絶叫の後、善逸はまるで操り人形の糸がプツリと切れたかのように膝から地面へと崩れ落ちた。