第11章 倒したのお前やで
走り回っている内についに、二人は切り立った崖の下へと追い込まれてしまった。
高くそびえ立つ岩の壁。
善逸は咲を腕から降ろすと、自身の後ろに隠すように押し込んで、すぐに追いついてきた鬼をキッと涙の浮かんだ瞳で睨みつけた。
鬼は、咲と善逸が追い詰められたネズミのように壁に張り付いているのを見てニタリと笑う。
「いい加減諦めろ、黄色いガキ。その女を渡せ」
舌なめずりをしながら鬼は一歩、また一歩と善逸達の元へと近づいてくる。
「だっ、だめだっ、ダメだダメだ!!咲ちゃんには指一本触れさせない!!」
善逸は涙声になりながらも叫ぶ。
守らなきゃ、守らなきゃ、と善逸の心の中で早鐘が鳴るように同じ言葉が繰り返される。
刀の柄を握りしめた右手。
だが、その手はブルブルと大きく震え、刀を引き抜くことが出来ない。
そこへ、一足遅れて宇髄達も到着した。
ガサッと各々が忍らしく木の枝に着地して、ジリジリと鬼に詰め寄られている善逸達の姿を見つめる。
「て、天元さまぁ~!!」
先ほどの宇髄の言葉を信じ一度は口を閉じたものの、この光景を見てしまってはどうしても黙って見ていることが出来ずに、須磨が泣き声を上げる。
「天元樣!!やはり…」
雛鶴とまきをも青い顔をしている。
「大丈夫だ。お前ら俺の言ってることを信じろ」
とは言ったものの、実は宇髄もほんのちょびっとだけ心配になりつつあるのだった。
(アイツあんなに泣きべそかいてて大丈夫かァ?咲を守るためだからもっと気張るかと思ったんだが、いつもよりも”発動”が遅ぇな。これで万が一にも咲にかすり傷でも負わせようもんなら、俺が煉獄に殺されちまう)