第11章 倒したのお前やで
一方、木々の間を縫うように走る善逸の腕に抱かれた咲は、すぐ真横にある善逸の泣き顔を見つめながら声を上げた。
「善逸さん!私は大丈夫です!いつもこうやって追いかけられますけど、藤の花の香水を付けているから喰われることはありませんし、上手くまいてみせますから!だから下ろしてください!」
「だっ、ダメだよそんなのっ!!上手く逃げ切れるかなんて分からないし、咲ちゃんに万が一のことがあったら、俺っ、炭治郎達に顔向けできない!!」
ぎゅっ、と咲の体に回された善逸の腕に力が込められる。
普段の臆病な姿を見慣れてしまっていたせいか、その力強さに咲は意外な驚きを感じる。
ふと、遠い昔に杏寿郎にこうして抱えられて鬼から救ってもらったことを思い出した。
あの時の自分はただの無力な子どもで、なす術なく泣いていることしか出来なかった。
だから少しでも鬼殺に関われるように剣士を目指し、そして結局は隠になった。
いつまでもあの頃の無力な子どものままではいたくない。
それなのに結局、仇である下弦の弐の「甚振」に遭遇した時も自分は何も出来なかった。
今回もまた同じなのか?
剣士になれなかった自分には、何もできないのか…?