第11章 倒したのお前やで
目玉がこぼれ落ちてしまいそうなほどに両目を見開き絶叫し始めた善逸の、そのあまりの狼狽ぶりに咲もびっくりしてしまった。
鬼の動向に警戒しながらも、何とか善逸の気持ちを落ち着かせようと歩み寄る。
「ぜ、善逸さん、落ち着いてください」
「だだだだだって、咲ちゃんっ!!」
ガタガタガタと歯を鳴らしながら、涙をいっぱいに溜めた瞳で善逸が咲を見た時、ぐるりと鬼もまた咲の方を向いた。
「あぁ~、今までに嗅いだことのない良い匂いだ。お前から匂ってくるなぁ」
舌なめずりをしながら鬼が咲に近づいてくるのを見て、善逸は飛び上がった。
「ヒッ!!」
そして、おもむろに咲の膝の後ろに腕を差し入れると、その体を抱え上げ脱兎の如く走り始めたのだった。
「えっ!?ぜ、善逸さんっ!?」
「だ、大丈夫だよ!!咲ちゃんのことは、俺が絶対守るからっ…!!」
だがその勇ましいセリフの合間にも、ガチガチガチと激しく歯は鳴り、咲の体を抱く腕はブルブルと震え、その金色の大きな瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ出てくるのだった。
まるで疾風のように遠ざかっていく善逸のことを、鬼も追いかけ始める。
「待てぇ!!」
「善逸くんっ!咲ちゃんっ!!」
宇髄と三人の嫁達もまた、その後を追って走り始めた。