第11章 倒したのお前やで
温泉でゆっくりと身体を休めた一行は、今夜は近くの藤の花の家紋の家に泊まることにした。
実を言うとこの人里外れた露天風呂がここまで綺麗に整備されているのは、藤の花の家紋の家が手間をかけてくれているおかげであり、療養中の鬼殺隊の隊士達がたまにこの風呂を使っているからであった。
藤の花の家には、前もって宿泊したいということを伝えてある。
「ちょっとのんびりし過ぎちまったかァ」
薄暗くなってきた山道を歩きながら、宇髄がポリポリと頭を掻いた。
つい先程まで頭の真上にあった太陽は、今ではすっかり山の稜線の向こうに姿を消そうとしている。
「そうですね。久しぶりの温泉でしたから、ちょっと長居し過ぎましたね」
宇髄の横で雛鶴も眉を下げながら言った。
「まぁでも、体の疲れがすっかり取れましたよ」
「そうですよ!私今、元気モリモリですっ!」
まきをと須磨も口々に言う。
だがその誰もが、足だけはせっせと素早く動かしているのだった。
はっきりと口に出して言うことはなかったが、皆、咲のことを心配していたのだ。
咲はかなり強力な稀血の人間である。
蟲柱のしのぶが特別に調合した藤の花の香水を常につけているとは言え、夜間に外を出歩いていては鬼に遭遇してしまう可能性が高くて危険であった。