第11章 倒したのお前やで
「善逸くーん、天元様と一緒に入れて羨ましいわ~!」
柵の向こうから、須磨が少しからかうような声を上げる。
「羨ましいことなんて無いですよっ!俺もそっちに行きたいなぁ~!!」
「こっちはダメですぅ~!なんて言ったって嫁入り前の女の子がいるんですからっ!!」
顔は見えないが、須磨がぷくっと頬を膨らませながら言っている姿が、その声から目に浮かぶようである。
須磨の声に続き、今度はまきをのドスのきいた声が聞こえた。
「善逸、もし咲の裸を覗こうとしやがったら…アタシがあんたを葬り去る」
「うふふ、それも致し方ないわねぇ」
可愛らしい笑い声を上げながら、雛鶴もそれに同意する。
発言の内容と声色が全く一致していないので、見方によってはまきをよりも恐怖を感じさせる。
「ちょっとおおお!宇髄さん、アンタの奥様方すっごい怖いんですけど!!?」
「だははは!!さすがは俺の嫁達だ!!おーいお前ら、この金髪野郎の邪眼から咲の事を守りきれよー!じゃねぇと、俺達全員業火に焼かれちまうからなァ!」
「はーい!!」
愉快そうに宇髄は笑うのだった。
「え?何?業火?」
唐突に出てきた単語に首をかしげる善逸であったが、女湯の方ではしっかりとその意味を理解しているのだった。
ただし、一名を除いて。
「業火??」
当の本人である咲もまた、首をかしげているのであった。
業火とは、言わずもがな杏寿郎のことを指しているのであり、仮に善逸が咲の入浴姿を覗いたりなどして、それが杏寿郎の耳にでも入ろうものなら、蝶屋敷で次の間まで吹き飛ばされた時のようには済まないだろう。
杏寿郎は基本的には朗らかで優しい男だが、こと咲の事となると自分の牝を守りたい雄の本能が前面に出てしまう。
だが不憫なことに、その感情を咲は「兄妹愛」と捉えている節があり、杏寿郎の気持ちはいまいち伝わっていないのだった。
そんな点が、周囲がこの二人の関係性を見てヤキモキさせられる要因の一つであった。