第11章 倒したのお前やで
宇髄は道を歩けば誰もが振り返るような美男である。
言い寄ってくる女性だって後を絶たないに違いない。
女なんて選り取りみどり、遊び放題だろう。
だが、彼はいっそ清々しいほど嫁達のことしか眼中に置いていないのだった。
まさに嫁一筋。
これほどまでにモテる男が貫く一途さというものは、何にも代え難いほどの尊さがあると、咲は感じていた。
女にとって、自分の愛する人がこんなに格好良くて、しかも自分だけを真っ直ぐに見てくれるというのは、至上の喜びであろうと思う。
嫁が三人もいるということは、常人であれば受け入れ難いことであろうが、彼女たちの生い立ちではそれは生まれた時から当然のこととして決められていたので、何の引っかかりにもなっていないのだろう。
咲がそんなふうにホワホワとしている一方で善逸はクチャクチャと音を立てて咀嚼し、まるで町のゴロツキのような表情をしながら宇髄を睨みつけているのだった。
「なんでアンタばっかり、こんなに綺麗な嫁さんが三人もいるんだよォ!!」
「そりゃ俺がど派手にイイ男だからに決まってんだろ。悔しかったらお前も早く嫁を見つけることだなぁ!」
「キイイイーッ!!俺にだってなァ!心に決めた人はいるんだよっ」
勝ち誇ったような宇髄の言葉に、またもや鉄砲水のようにジョバーッと悔し涙を流し始めた善逸を見て、咲が助け舟を出す。
「ま、まぁまぁ……宇髄さん、あんまり善逸さんをいじめないであげてください」
「咲ちゃああぁん!ホントに君は、まぁ、何て優しい子なんでしょ!!」
善逸は咲のもとへといざり寄って行くと、はしっとその手を握り締める。
その顔は、涙でぐちゃぐちゃになった頬に米粒がいくつも付いていて、まるで大泣きしている子どものようであった。
きっとここに炭治郎がいたとしたら、「善逸、食事中に行儀が悪いぞ!」と叱りつつも、その顔を布で優しく拭いてやったことだろう。