第11章 倒したのお前やで
そんな穏やかな空気をぶち壊すように、けたたましい泣き声をあげながら山から戻ってきた善逸が縁側にドサッと倒れ込んだ。
「ゼェ…ハァッ……!!死ぬっ、死ぬ死ぬ死ぬ、死んじゃうーっ…ウオェッ、ゲホッ!!」
今にも吐いてしまいそうな顔色をして、えずいているのか、しゃくりをあげているのか判然としないが、汗だくのまま善逸は仰向けで横たわっている。
「おう、善逸。おめェ、ちゃんとあの山10往復したか?」
「しっ、しましたよっ!!アンタッ、俺を殺す気ですか???!しかも罠まで仕掛けてやがったし!!」
ジョバーッと、まるで噴水のように涙と唾を飛ばす善逸。
ゼエゼエと苦しそうに肩で息をしている様子に、咲は慌てて自分の湯呑を持ってかけ寄った。
「善逸さん、とりあえずお茶を…」
「あっ、ありがとぉお~!!咲ちゃん!!なんて優しい子なんでしょ!!」
まるで命の水と言わんばかりに、善逸は咲の湯呑に入っていたお茶を一気に飲み干した。
「咲ちゃんは本当に優しいねェ~!!誰かさんとは大違い!!」
「おい、その誰かさんってなァ、一体誰のことだ?」
「アンタのことに決まってんでしょーが!!この鬼っ!鬼畜っ!!」
涙をまき散らしながら叫ぶ善逸に、宇髄は愉快そうにケラケラと笑う。
通常、平隊士が柱に向かってこのような言葉遣いをしたら処罰ものである。
だが善逸のこのキャラクターと、宇髄が特に彼を気に入っていることから、特別に不問にされている。
とは言え、言葉が過ぎる時にはさすがにゲンコツを食らうこともあるのだが。