第11章 倒したのお前やで
「あら、善逸くん戻ってきたのね。じゃあそろそろお夕飯にしましょうか」
騒がしい声を聞きつけてやって来た雛鶴が、縁側で伸びている善逸の姿を見てクスクスと笑う。
目元に涙ボクロのある雛鶴がそんな風に笑うと、そこはかとなく色気が漂い、ぞくりとするような美しさがあった。
宇髄の妻達は皆それぞれに美しく、彼女たちを形容するならば「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」と言う言葉が一番似合うと咲は思っていた。
いつも元気で可愛らしい須磨は、芍薬。
キリッとした意志の強さの中にも華やかさのある まきをは、牡丹。
儚げで、でも凛とした美しさをたたえた雛鶴は、百合の花。
「私も手伝います」
咲が善逸の側を離れて雛鶴のもとへと駆け寄ると、雛鶴は咲の頭を優しく撫でて微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ、お願いするわね」
雛鶴はいつも、咲の頭や頬をこうやって撫でてくれる。
その白くてしっとりとした手は、しのぶや、母親の事を思い出させ、咲の心を温かくするのだった。
雛鶴と連れ立って台所に行くと、入口にかけられたすだれの向こうで須磨がまきをにビシビシと追い立てられながらヒイヒイと走り回っていた。
「ほらほら、早くしないと天元様のご飯が冷めちまうよ!」
「はっ、はいいい!!」
半泣きの須磨。
その須磨を叱りつけながらも、まきをの方もテキパキと立ち働いていた。