第11章 倒したのお前やで
「すまねェな、咲」
今日は、どうにかこうにか少しまとまった時間を確保した宇髄が、咲と並んで筆を動かしながら、申し訳なさそうな顔をして言った。
「いえいえ、柱はお忙しいですから仕方ないですよ。それにもうすぐ終わりますし、そんなに気になさらないでください。でもこうしてみると、書類の処理手続きが煩雑で多すぎますねぇ…。もっと簡素化できないか皆で検討してみます」
「おう、そうしてもらえると助かるわ。俺達は基本的に体動かす事の方が得意だからなぁ…。どうもこういう作業があんまり得意じゃねぇんだわ。きっと他の奴らも難儀してんじゃねぇか?」
「そうですねぇ…。確かに不死川さんや杏…煉獄さんからは、時々手伝ってくれと呼ばれることがあります。水柱様はとてもきっちりされていて、書類の提出もお早いです」
「へえぇー、あの冨岡がねぇ。まぁ確かに、何だか細かそうだもんなアイツ」
義勇の普段の様子でも思い浮かべたのか、ニヤニヤと宇髄がいたずらっぽく笑う。
そんな風に笑いながらも宇髄は、先ほど咲が杏寿郎のことを煉獄と呼び直した些細な点に気づいていた。
おそらく、音柱である宇髄の手前、あまり馴れ馴れしすぎる呼び方も失礼だと気を使ったのかもしれない。
そんな咲がいじらしくもあり、もどかしくも感じた。
「ところでよォ、咲、煉獄とは最近どんな感じなんだ?」
「え?」
宇髄の意図としては、決して下世話な気持ちでこんな風に水を向けた訳ではない。
お互いの事を好き合っていることが周囲にはダダ漏れなくせに、当の本人達はまったくそれに気づいていないというもどかしい状況を少しでも打開してやりたいという老婆心から、こんな質問をぶつけてみたのだ。
それは妹分のように可愛がっている咲のためでもあるし、戦友であり、こちらもまた弟分のように思っている杏寿郎を思ってのことでもあった。