第11章 倒したのお前やで
その日から咲は宇髄邸に泊まり込んで、溜まりに溜まった書類の処理に取りかかったのだった。
もちろん、書類を溜めた張本人である宇髄も一緒に作業している。
だが何しろ宇髄は柱だ。
日中は自身の鍛錬や鬼の情報収集、夜間には鬼殺の任務があるので、中々事務処理に時間が取れない事も多い。
それに加えて、今は善逸の鍛錬も見ている。
いわゆる個別の柱稽古だ。
その気に入りようを見れば、もうほとんど継子と言っても良いくらいだったし、きっと宇髄は何度かは善逸に継子になるよう言ったに違いない。
だがそうなっていないのは、当の善逸が承諾しないからなのだろう。
善逸は、非の打ち所のない容姿を持った宇髄に燃え上がるような激しい嫉妬心を抱いており、三人もの美人の奥方がいることも気に入らないようであった。
それでも宇髄の招集に渋々ながらも従っているのは、物理的な圧と、彼もまた宇髄本来の性格をちょっぴりは慕っているからなのだろう。
その善逸は今、宇髄の指示により山の中を駆けずり回っている。
蝶屋敷での療養中に落ちてしまった体力を回復させるためである。
時折善逸の上げる絶叫が山びこのように響いて、屋敷の中にいても微かに聞こえることがあった。