第11章 倒したのお前やで
「実はなぁ、すごく言い辛いんだがよォ…、その、経費請求の書類を…結構溜めちまってな。ちょっと俺だけじゃどうにもできそうにねぇんだわ」
てへっ、とまるでイタズラを誤魔化す子どものような顔をして宇髄が笑う。
「なんだ、そんな事でしたら私がお手伝いいたしますよ。さっそく今から取り掛かります」
明るく返事をした咲に、少し安心したのか宇髄はほっとしたような表情を浮かべる。
だがまだ少し、申し訳なさそうな色は消えない。
「それがなぁ…」
ポリポリと気まずそうに頬を掻きながら宇髄が言って、部屋の隅に控えていた雛鶴とまきをに目配せをした。
二人もやや青い顔をしていて、こっくりと頷くと、隣の座敷に繋がるふすまを開いた。
その向こうに広がる光景を見て、咲はあんぐりと口を大きく開ける。
「わ、あぁ……」
そこには、まるでここまでの道のりで咲と善逸が越えてきた山のように、うずたかく積み上げられた大量の書類が鎮座していたのであった。
「う、宇髄さん……」
何という量を…と思わず口に出しそうになったが、咲は必死でそれを飲み込む。
そんな咲の表情を読んだ宇髄が、再度謝った。
「すまねぇ。ほら、最近柱稽古とかもあっただろ?それでさらに忙しくなっちまって、気づいたらこの有様だったって訳だ」
宇髄の申し訳なさそうな顔を見れば、どれほど忙しかったのか、ということはよく分かる。
宇髄は意図的に軽薄でお調子者の仮面を被っているが、決して嘘をつくような人ではない。
それに、いかにも「俺様」といった尊大な態度を取る割には、実は面倒見が良く周囲の人間をよく見ており、さりげないフォローもしてくれる。
そんな人柄を知っているからこそ、咲は宇髄を慕っているし、この大量の書類の山を前にしても何とかしてあげようと思えるのだった。