第2章 逢魔が時
「確かに彼女は足が不自由かもしれないが、優秀な隠だ。足のことを理由に彼女を軽んずることは、この俺が許さない」
キリッとした視線を向けられて、さすがの伊之助もたじろいだ。
その視線の間に、炭治郎が慌てて割って入る。
「伊之助も悪気があった訳じゃないんです」
「うむ!それはそうだろう!悪意を持って言っていたとしたら、この場で俺が叩きのめしていたところだ!」
例の、どこを見ているのか分からないような目つきで、言葉の内容に全くそぐわない快活な口調で言う杏寿郎に、伊之助は野生の本能で危険を察知したのか炭治郎の羽織を掴んでプルプル震えている。
炭治郎はそれを庇うようにして、冷や汗を流しながら杏寿郎の顔を見つめ返していた。
そんな炭治郎達の様子を一瞥してから、杏寿郎は静かに話し始めた。
「咲は、自宅を鬼に襲撃され家族を惨殺されている。あの時駆けつけたのは俺と不死川だったが……あと少し早く到着していればと、今でも悔やまれてならない」
そう言って杏寿郎は眉を寄せて目を閉じた。
快活なのだがいつも表情の変わらない彼が、炭治郎達と合流してからほとんど初めて表情を変えた瞬間だった。