第11章 倒したのお前やで
座敷に通され、お茶や菓子を出された頃に、ゆったりとした着流し姿の宇髄が入って来た。
今日は普段のような目元の化粧はしておらず、髪も結っていない。
少し肩から力の抜けた自然体なその姿は、本当に惚れ惚れするような美男ぶりであった。
その傍らには、宇髄の美しい妻の内の最後の一人、雛鶴の姿があり、彼女もまた咲を見るとポンポンと頭を撫でてくれたのだった。
宇髄の妻たちは、毎月やって来る咲のことを非常に気に入っており、まるで妹のように可愛がっている。
最初は単純にその可愛らしい見た目ゆえに愛でていたのだが、咲の生い立ちを知るにつれて、努力家な性格も気に入ったのだった。
「咲、悪ィな、わざわざ呼び立てちまって」
上座の席にどっかと座って、ニコニコと笑顔を浮かべながら宇髄が言う。
整った顔立ちが浮かべる笑顔は爽やかで、体格も良いので、その姿は本当に惚れ惚れしてしまう。
宇髄は咲の隣に座っている善逸にも目を向けて、
「よぉ善逸。怪我はすっかり良くなったみたいだな」
と、咲に向けた慈愛に満ちた笑顔からは一転して、からかうようなニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「はあ、お陰様で…」
それに対して善逸は、あからさまにムスッとした顔をして返事をする。
先ほど宇髄が部屋に入ってきてから、ずっとこんな顔をしているのだ。
「おいおい、なにぶーたれた顔してんだよ。俺様直々に稽古をつけてやることなんて滅多にねぇんだから、もっと感謝しろよな」
善逸の態度にやや額に青筋を浮かべながらも、本気では怒っていない様子の宇髄は、再度咲に視線を戻した。
「それでな……お前を呼んだ理由なんだが…」
「はい。書類のことでお訊ねとのことですよね。なんなりとお申し付けください」
煩雑な書類処理のことで隊士達から訊ねられることは珍しくないので、咲はにっこりと微笑みながら応えた。