第11章 倒したのお前やで
善逸と咲が他愛もない話をしながら歩みを進めて行くうちに、宇髄邸の門が遠くに見えてきた。
それは平屋建ての広大な屋敷で、周辺に群生した樹木に隠れるようにして建っていた。
ぼんやりしていると気づかずに通り過ぎてしまいそうなほど、巧妙に森と同化している。
玄関で二人を出迎えてくれたのは、宇髄の三人の妻の内の一人である須磨であった。
「あーっ!咲ちゃん!善逸くん!」
屈託のない笑顔を浮かべて、やや大きめの声を上げて須磨が咲に抱きつく。
咲は毎月の給料の受け渡しのためにこの屋敷にもやって来ているので、三人の妻とも面識があるのだ。
というより、夫である音柱・宇髄天元の補佐役という形で三人とも形態はやや特殊だがれっきとした鬼殺隊の隊士であり、当然、給料も個別に支払われている。
その担当もまた、咲が担っているという訳だった。
咲の手を引っ張りながら、やや小走りになってトタタタと須磨は廊下を進んでいく。
「天元さまーっ!咲ちゃんと善逸くんが到着しましたよーっ!!」
屋敷中に響きそうな大きな明るい声で、主人である天元を呼ぶ。
その時廊下の角から、まきをが顔を出した。
「アンタは声がバカでかいんだよ!」
そう言ってまきをは、須磨の頬をパァンと叩く。
だがその語気の激しさの割には、実は頬を弾いた手にはそれほど力は込められていないのだった。
まだまだ子どもっぽさの抜けない須磨のことを姉貴分らしく叱りつけてから、まきをはくるりと二人に顔を向ける。
「よく来たね、咲、善逸」
そうしてまきをもまた、須磨と同じように咲をぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
脇で善逸も、何か期待するような顔をしてソワソワとしていたが、それはあっさりと無視された。