第11章 倒したのお前やで
「あーっ!咲ちゃん!どうしたの!?こんなところで会うなんて奇遇だねぇ!」
ばびゅんと顔を寄せてきた善逸が、ニコニコと微笑みながら両手を握ってくる。
その勢いに、咲はやや気圧された。
善逸は会うたびにこうなのだが、いつまで経ってもこの対応には慣れない。
だが、勢いは凄まじいのだが自身の手を握るその手はとても優しく、まるで花でも摘むかのように繊細なので、戸惑いつつも嫌ではないのだった。
「音柱様に呼ばれたのです。善逸さん、もうお怪我の具合はいいんですか?」
「うん、すっかり!」
でれえーっと顔面を緩ませて善逸は、こっくりと大きく頷く。
「ところで善逸さんは、どうしてここに?」
「何かさーあのオッサンが、病み上がりで体力落ちてるだろうから、特訓つけてやるから来いとか言うんだよ」
”あのオッサン”というのは、宇髄のことである。
柱である宇髄に対してこんな無礼な呼び方をするのは善逸くらいのものであるが、当の本人である宇髄が許しているので、何となくまかり通ってしまっている。
不安と不満が入り混じったような顔で、唇をとんがらせて言う善逸に、咲は微笑む。
「善逸さん、宇髄さんに気に入られたんですね」
「げっ!!」
咲の言葉に、踏み潰された蛙のような声を善逸は上げる。
心底嫌そうな表情だ。
「咲ちゃんでも、そういうこと言うのやめてよー!!ウワー!!鳥肌がっ!!」
大げさに叫んでいる善逸を見ながら、咲はクスクスと笑う。
善逸は嫌がっているが、宇髄がこんなことを言うのは非常に珍しいことだった。