第10章 産屋敷財閥に任せなさい
(あわわっ、煉獄さんから何だかものすごくガッカリした匂いがするぞ)
炭治郎が嗅ぎ取った通り、杏寿郎は天国から一気に地獄に落ちたような気がしていた。
そこまでは言い過ぎかもしれないが、咲と二人で出かけるものだと思い込んでいたので、まさか炭治郎も参加するとは微塵も思っていなかったのである。
普段、杏寿郎は機会があるごとに咲のことを誘って様々なところへ行く。
それは新しくできた茶屋だったり、相撲だったり、歌舞伎だったりする。
誘えば咲はいつでも嬉しそうについてきてくれるし、とても楽しんでくれているように見えた。
だが、自分が先に誘いすぎているせいなのか、咲から誘ってもらったことがあまり無いのだ。
だから今回、咲から誘われたことで舞い上がってしまい、炭治郎が一緒にいたというのに、そのことに全く思い至らず、てっきり二人きりで行くものだと思ってしまったのだ。
それくらい、杏寿郎は咲のこととなると周りが見えなくなってしまう。
「炭治郎さん?」
その場を動かない炭治郎に、咲が不思議そうな顔をする。
「行きましょう?」
「あ、う、うん」
(どうしよう、もしかして煉獄さん、咲と二人で出かけたかったのかな)
炭治郎は迷った。
だが、先ほど快諾してしまったのに、いきなり断るというのも悪い気がして、炭治郎はどうしたものかと必死で頭を巡らせる。
その時だった。
炭治郎の顔を覗き込むようにして、笑顔を浮かべたしのぶが突然姿を現した。
「いいじゃないですか。是非三人で行ってきてはどうですか?」
ニッコニコー!と満面の笑みを浮かべるしのぶに、炭治郎はびっくり仰天する。
「わあっ!しのぶさん!」
「しのぶさん!」
突然のしのぶの登場に驚いたのは炭治郎だけではなく、咲も声を上げた。
そんな咲の頭をポフポフと撫でながら、しのぶは杏寿郎のことを見上げながら言う。
「ね、煉獄さん?」
「う、うむっ!!三人で行こう!!」
全てを見透かすような目で見つめられ、杏寿郎は咲と炭治郎の手前、そう言う事しか出来ないのだった。