第10章 産屋敷財閥に任せなさい
杏寿郎の、咲に対する気持ちに気づいている人間は割と多い。
それは杏寿郎の態度があからさまだからである。
よほどの鈍感でなければ、杏寿郎が咲のことを一人の女性として好いていることなど一目瞭然なのである。
そしてしのぶも、その気づいている人間の一人であった。
杏寿郎は、非常に快活で明るく、性格もまるで竹を割ったようにさっぱりとしていて誰に対してもハキハキと話す。
そして、好きな相手には好き、嫌いな相手には嫌い、と割とはっきりと口に出す。
と言っても、人間に対して嫌いと言っているのは見たことがない。
嫌いと言う相手は、大抵は鬼である。
とにかく、そんなはっきりとした性格をしているくせに、杏寿郎はいつまで経っても咲に告白しない。
色々と思うことはあるのだろうが、あそこまで好意をダダ漏れにしているくせにモジモジと立ちすくんでいるのを見ると、後ろからドンッと背中を押してやりたくなるのだ。
だから、廊下の真ん中でションボリしている杏寿郎を見た時に、ハッパをかけてやりたくなって、しのぶはそんなことを言ったのだった。
どうせ二人で行ってもいつもみたいにほのぼのと話しをして帰ってくるに決まっている。
ここは一つ、異分子(炭治郎)を投入してみた方が、杏寿郎の行動にも変化が生まれるのではなかろうかと思ったのだ。