第9章 人の気も知らないで
それから二人は他愛もない話をした。
千寿郎の前では咲も、つい大人っぽく振る舞ってしまうのだが、こうして杏寿郎と二人きりの時は人目を気にせずに思い切り甘えることができる。
日中は槇寿郎と千寿郎につかまっていたので、杏寿郎とほとんど話せなかったことを咲も気にしていたのだ。
二人のことは大好きだし、咲もまた実の父親や弟のような気持ちで慕っている。
だがそれと同じくらい、杏寿郎のことも好きなのだ。
恋愛的な意味ではもちろん釣り合うわけはないとわきまえているが、やはり近くにいたら話したくなる。
兄としてなら……尊敬する師に対する感情としてなら、この好意も許されるのではないかと思っていた。
隠はその任務の都合上、野宿をすることもしばしばである。
だが咲はこの稀血のせいでいつ何時鬼に襲われるか分からないので、日頃から眠りが浅く、ぐっすり眠るということがあまり無かった。
常に緊張しているような状態だから、当然寝付きも悪い。