第2章 逢魔が時
その返答を聞き、伊之助は「ふーん」と小さく鼻を鳴らす。
そしてまた、何の躊躇もなく言い放った。
「その足じゃ、お前は山では生きていけねぇな。自分で餌が取れねぇからな。人間だから生きていられる」
あっけらかんとしたその口調からは、恐らく彼に悪気は無いのだろうということがよく分かった。
赤子の頃に親に捨てられ、その後は山の中で猪に育てられたという経歴を持つ伊之助は、人一倍「食べ物を自力で確保できるかどうか」ということにこだわる。
それは、厳しい山の中で育ってきた環境がそうさせているのだろう。
伊之助はそんな生育環境から学び取った自然の摂理を言っただけなのだろう。
だが、今この場においてその言葉は、無神経とも受け取れるような発言であることは間違いなかった。
「なんてこと言うんだ伊之助っ!」
炭治郎が慌てて叱責する。
この、山育ちの無垢な同期に悪気が無いことは十二分に理解しているが、彼女に対してあまりにも言葉が強すぎると感じたのだ。
叱責された伊之助の方は、「なに言ってんだ?」と言わんばかりの不思議そうな表情を浮かべている。
今は猪の被り物を外しているから、口の周りにおかきのクズをたくさんくっつけたその顔は、まるで年端もいかない少女の様だった。