第2章 逢魔が時
「じゃあ、預かるわね」
「お願いします、アオイさん」
二人は旧知の仲なのか、慣れた様子で咲の足から外されていた義足の受け渡しを行った。
「また随分と派手に折れたわね」
「はい……こんなこと、使い始めて以来初めてです」
「耐用年数の限界が来たのかもしれないわね」
そんな二人の会話を聞きながら、炭治郎はチラリと咲の右足に目をやった。
畳に投げ出された右足は、脚絆が解かれて裾の広がった隊服の下でペタンとしぼんでおり、膝から先には何も存在しないのだということをありありと示していた。
それがあまりにも痛々しくて炭治郎がすぐに目をそらした時、今までおかきに夢中になっていた伊之助が、菓子鉢の中のものを全て食べ終えてパッと顔を上げた。
「オイ、お前その足どうしたんだ?」
何の躊躇もなく発せられた言葉に、炭治郎と、向こうの部屋に吹き飛ばされた後ズルズルと這い戻ってきていた善逸が、ギョッとして顔をこわばらせた。
正直なところ、森で鬼に襲われている時から彼女の義足のことは気になっていた。
だが、それをいきなり口にするのはあまりにも無遠慮というものだ。
だから二人は黙っていたというのに……。
しかし、気まずさを漂わせている炭治郎達とは真逆に、問われた張本人の咲は意外なほど淡々とした口調で答えたのだった。
「昔、鬼に喰われたんです」
その声はまるで凪いだ海の様に静かで、いささかの感情の乱れも無いように感じられた。