第9章 人の気も知らないで
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夜になり、杏寿郎は庭の見える縁側へと向かった。
今日は良く晴れて、月が綺麗な夜だ。
こんな夜は咲はよく縁側に出て静かに月を見ていることが多いから、きっと話せるだろうと思ったのだ。
咲がこの煉獄家で過ごしていた時も、二人はよくそうやって話していた。
日中は家事やら鍛錬やらで忙しくしている二人が、唯一ゆっくりと話せる時間であった。
縁側を覗くと予想通り咲が座っていて、空を見上げて縁側から伸ばした足をブラブラと揺らしていた。
「咲」
声をかけると、くるりと振り向いた咲がにっこり微笑む。
「杏寿郎さん見てください、今日は月がとても綺麗ですよ」
「やぁ、本当だ」
杏寿郎が咲の隣に腰掛けると、こちらを見上げている咲と視線が合う。
ニコニコと幼い笑みを浮かべている顔を見下ろしていると、杏寿郎はつい、
「愛い!!」
と叫んでしまいそうになる。
本当に、いつ見ても、どこから見ても可愛いらしい。
しかも最近ではますますその整った容姿に拍車がかかって、「可愛い」というよりも「美しい」と表現した方がしっくりとくるような表情まで見せるようになってきた。