第9章 人の気も知らないで
二人が心配そうな顔をしながらも退室すると、杏寿郎は改めて槇寿郎に向かい合った。
すっ、と居住まいを正した杏寿郎に、槇寿郎の表情も真面目なものへと変わる。
先に口を開いたのは槇寿郎の方だった。
「杏寿郎、お前、咲の事を好いているのだろう?」
「はい。妻として娶るのならば、咲しかいないと思っております」
「そこまで思っているのなら、何故早くそうしない。お前ももう立派な大人だ、何を躊躇うことがある」
槇寿郎の問いに杏寿郎は少し黙った後、再び話し出す。
「……咲は、家族の仇を討とうとしています。それが成就するまでは、と」
「う……む。だが、それではいつになるか分からんぞ。咲は確かに頑張っている。片足の無い状態で、隠としてでも鬼殺に尽力することなど、中々できるものではない。大したものだと、俺も思っているが……」
「それでも、彼女が納得のいくまでやらせてやりたいのです!なに、そんなに長い期間、咲に辛い思いはさせません。俺が何としてでもその鬼を見つけ出し、その首を討ちます」
母親の瑠火によく似た意志の強い目で真っ直ぐに見つめられ、槇寿郎は納得したように深く頷いたのだった。