第9章 人の気も知らないで
そんな風にして賑やかに話している杏寿郎と、ニコニコと微笑みながら話を聞いている咲をしばらくの間黙って見ていた槇寿郎が、少し首をかしげ腕組みをして言った。
「杏寿郎、いいかげん咲と祝言をあげろ」
「ブッフォッ!!」
唐突な槇寿郎の言葉に、千寿郎の出してくれた茶に口をつけていた杏寿郎は盛大に吹き出した。
「わあぁ、兄上っ!大丈夫ですか!?」
慌てて千寿郎が布巾を持って駆け寄る。
咲も、突然水鉄砲のように茶を吹き出した杏寿郎に驚きつつも、眉を下げて槇寿郎に言った。
「おじさま……!!またそんなご冗談を言って」
槇寿郎がこういう事を言うのは、割とよくあることなのだ。
事あるごとに、話題が途切れた時とか、こうして杏寿郎と咲が楽しげに話している姿を見ると、突然ぶっ込んでくる。
槇寿郎の胸中としては、実の娘も同然の可愛い咲を、早く本当の娘にしてしまいたいのだ。
ここまで気に入っている娘が、煉獄家の跡目を継ぐべき杏寿郎と夫婦になってくれれば、こんなに嬉しいことはない、と思ってこんな事を言っている。