第9章 人の気も知らないで
しかし、そうは言ってもやはりまだまだ甘えたい盛りであり、ふとした瞬間に年相応の子どもらしさが垣間見えることがあった。
だが、妻を亡くして傷心の父親は心を閉ざしがちで、兄は鬼殺の剣士となり外を飛び回る日々。
甘えたくても甘えられる相手がいなかった。
それを何となく察したからこそ、咲は特に千寿郎のことを可愛がった。
三人兄弟の末っ子であり、いつか弟や妹が欲しいと思っていた咲にとって、千寿郎はまるで本当の弟のように可愛く思えた。
そして、そう思っていたのは咲ばかりではなかった。
千寿郎もまた、咲を実の姉のように慕っているのだった。
それは咲の、悲惨な過去にも屈せず前向きに生きている姿を尊敬したからであり、朗らかで優しい人柄を好ましく感じたからだ。
そして何よりその容姿は亡くなった母の遺影によく似ており、千寿郎にとって咲は姉であり母のようでもあり、なかなか甘えられる状況になかった自分にとって唯一、気負わずに甘えられる相手であった。