第9章 人の気も知らないで
「咲さん!おかえりなさい!!」
そう言って千寿郎は、杏寿郎によく似た顔いっぱいに笑顔を浮かべて飛びついてきた。
まだ幼さの残るその姿に、咲は胸がキューンと震え、千寿郎の体をギュッと抱きしめる。
目の中に入れても痛くないほど可愛い。
「ただいま」
杏寿郎とは相撲を見に行ったり柱合会議で会ったりしていたが、こうして千寿郎に会うのはすごく久しぶりのことである。
咲は千寿郎の頭を優しく何度も撫でた。
「千寿郎くん、変わりはない?おじ様もお元気?」
「はい!僕も父も変わりありません。さ、咲さんどうぞ中へ。美味しい柏餅をいただいたので、一緒に食べましょう!」
グイグイと手を引っ張ってくる千寿郎の姿に、咲は眉を下げて微笑んだ。
咲が煉獄家にやって来た時、千寿郎はまだ十にも満たない子どもであった。
だがその立ち居振る舞いは、同じ年頃の子どもたちと比べると随分と落ち着いて大人びていた。
それが煉獄家の次男として、母亡き後、父と兄を自分が支えなければ、と幼いなりに決意したゆえの行動であることに、共に鍛錬を受ける内に徐々に咲は気づいていった。