第9章 人の気も知らないで
杏寿郎への荷物の配達の依頼が、咲に下された。
先の柱合会議の日以来会っていなかったので、咲は任務ではあるのだがウキウキと心が弾んだ。
(杏寿郎さんに会える!……と思うけど、ご在宅だろうか?任務に出かけていたら、お会いできないかもしれないなぁ……)
そう思うとちょっと心がしぼんでしまうのだが、槇寿郎や千寿郎に会えることを思ったらまた心は嬉しさでいっぱいになるのだった。
咲は昔から杏寿郎のことが大好きだ。
それは、優しかった長兄のことを思い出させるからであり、一人の人間としても尊敬するところがたくさんあるからであった。
心も体も成長するにつれて、その感情の中に「一人の男性として」の好意も含まれていることを自覚するようになったが、自分のような者が歴史ある煉獄家の跡取りである杏寿郎に好意を抱くなど分不相応であると思い、その想いは胸の内に抑え込んできた。
見慣れた道、見慣れた塀沿いを歩いていく。
それらを見ていると、煉獄家でお世話になっていた頃、町への買い物に行く時などによく通っていたことを思い出す。
角を曲がると、門の前で掃き掃除をしている千寿郎の姿が見えた。
「千寿郎くん!」
咲は嬉しくなって思わず駆け出してしまい、それに気付いた千寿郎も、ほうきを持ったまま駆けてきた。