第8章 あなたの笑顔が見たいから
蛇柱・伊黒小芭内は、その気難しく粘着質な性格から、風柱・不死川と共に隊士達からは特に恐れられている。
その性格同様に彼の小言はネチネチとまるで蛇がからみついてくるように執拗なので、一度でも彼から説教をくらった者は、恐ろしくてそれ以降は伊黒のことを極端に避けるようになる。
だが、誰に対してもそんな態度の伊黒が、唯一の例外として恋柱の甘露寺に対してだけは別人かと思われるほど寛容になるのだ。
そして、先ほど唯一の例外と言ったが、実は咲もまた伊黒からは例外的に可愛がられている。
伊黒は咲の生い立ちを知り、不自由な体になってもなお戦おうとしているその姿に、深く胸を打たれていたのだ。
伊黒は警戒心の強い男だが、これ、と認めた相手に対しては心を開く。
「疲れただろう、休んでいくといい。俺も任務まではまだ少し時間がある」
そう言って伊黒はクルリと踵を返してスタスタと屋敷の中へと入って行った。
決して愛想がある訳ではないのだが、その淡白な物言いの中にも優しさが感じられるので、咲もまた伊黒のことが大好きなのだった。