第8章 あなたの笑顔が見たいから
伊之助は刀についた鬼の血をピッと振り払うと、ズカズカと近づいて来て言った。
「オイ、咲!怪我してねぇか?」
「あっ、は、はいっ!大丈夫です!助かりました」
乱暴な口調ではあったが、意外にも第一声が咲の身を心配する内容であったので、咲は驚きつつも感謝を込めて頭を下げた。
それを見た伊之助は、得意げに猪の被り物からフンスと鼻息を吐く。
「ふん!子分を助けるのは親分の務めだからな!」
それを聞いた咲はあんぐりと口を開ける。
「い、いつのまに子分に…」
「お前は子分その四だ!」
子どものように無邪気なその勢いに咲は呆気に取られて反論する気も起きず、いや、むしろ微笑ましさすら感じてしまい、思わず笑いだしてしまった。
「ん?何笑ってんだ?」
「い、いえ、何でもないです。伊之助さん、助けてくださって、本当にありがとうございました」
そう言って咲がニコリと微笑むと、伊之助の顔の周りに、ホワホワとした光が浮かぶのが見えたような気がした。
俺様に任せておけ!と得意げに叫んでいる伊之助は一人のようで、炭治郎と善逸の姿は見えない。
単独任務の途中なのだろうか。
実を言うと咲は今の今まで、伊之助のことが少し苦手だと感じていた。
それは、初対面でいきなり片足が無いことを指摘され、「お前は山の中では生きていけない」と言われたことが影響している。
仇の鬼に遭遇した時も、「そんなに悔しいなら、なぜ剣士にならなかったんだ!この弱味噌が!!」と怒鳴られており、そのあまりにもストレートすぎる物言いに少々戸惑っていたのだ。