第8章 あなたの笑顔が見たいから
「おい、待てっ!!」
案の定、鬼は追いかけてきた。
だが一定以上には近づいてこないのと、走る速度から推測するに、それほど強くない鬼だということが分かった。
咲はこんな風にして鬼に追いかけられることは多いので、逃げるのにも慣れている。
だが純粋に走る速度だけで勝負したら、やはり人外である鬼にはとても敵わない。
だから逃げる時には、上手く死角を使って隠れたりしてまいてしまうのが一番なのだ。
その方法で逃げ切ろうと思ったのだが、今日の鬼は強くないくせに何故かとても粘り強くて、簡単に言うとすごくしつこいタイプだった。
「はぁっ、はぁっ!」
息が切れて苦しいが、ここで足を止める訳にはいかない。
森を抜けてしまいさえすれば、まだ昼間なのだから鬼も追ってはこられないだろう。
そう思って走っていたが、森の終わりまではまだまだある。
(頑張れっ!止まるなっ!)
自分を励ましながら、とにかく走っていたその時だった。
「獣の呼吸」
ヒュオッと、まるで突風とすれ違ったような気がした。
「えっ?!あっ!!」
驚いて咲が振り返った時にはすでに、交差された二本の刀が鬼の首目がけて高速で振り抜かれるところだった。
「参の牙 喰い裂き!!」
その声と共に、咲を追いかけていた鬼の首は、まるで鞠のようにポーンと飛び上がり、残された体の方はドサッと大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。
「い、伊之助さん!」
鬼の首を斬り、咲のことを救ってくれたのは、なんと伊之助であった。