第8章 あなたの笑顔が見たいから
それからまた少し雑談をした後に「ではそろそろ私は」と腰を上げた咲に、甘露寺も腰を浮かして訊ねた。
「次は誰のところに行くの?」
「えっと……」
咲はゴソゴソと鞄の中の荷物を確認しながら、「次は、伊黒さんのところに伺います」と答えた。
「あら、伊黒さんのところに行くのね!」
パアッと甘露寺は表情を明るくして、その後少しモジモジしながら咲を見る。
「あのね、一つお願いしてもいいかしら?」
「はい!何でも言ってください!」
甘露寺の頼みとあらば何でもお任せ下さい、とばかりに力強く咲は頷く。
「あのね、伊黒さんへのお手紙と、このお菓子を持って行って欲しいの」
差し出されたのは、甘露寺らしい丸文字で表書きされた手紙と、可愛らしい包装のされた小箱だった。
「承知しました。必ずお届けしますね」
咲は甘露寺からそれらを受け取ると、肩からかけた鞄の中に丁寧にしまった。
「伊黒さん、お元気かしら。お菓子、お口に合うといいんだけど」
「きっとお元気ですよ。お菓子も絶対喜ばれますよ。伊黒さんは、蜜璃さんが下さるものなら何でも喜びますから」
そう咲に言われると、甘露寺はいつも恥ずかしさと嬉しさで「きゃー!」と叫び出してしまいそうになるのだった。