第8章 あなたの笑顔が見たいから
それから時は流れたが、二人の関係はあの頃のままだ。
それがもどかしくもあり、ずっと見守っていたいとも思わせる。
(いつか、きっと二人が幸せになれる日が来るわ。師範が咲ちゃんに気持ちを伝えるまで、私は何も言わないわっ。恋柱たる私は、二人の恋路を見守るのみっ!)
甘露寺は、頬を膨らませながらパンケーキを食べている咲のことをニコニコと見つめた。
甘露寺が杏寿郎のもとで修行していた頃は、咲はまだまだ幼い少女だった。
もともと綺麗な顔立ちをしているので、真剣な表情をしている時などはまるで大人の女性のような顔を見せることもあったが、笑っている時はやはりまだ幼さを感じさせた。
むしろそのふっくらとした形の良い頬のせいもあって、年齢よりも幼く見えた。
それがここのところ少しずつ、大人の女性に近づいてきている様だった。
笑顔を見せるとまだ幼さがあるが、時折見惚れてしまうような大人っぽい表情を見せることがある。
(あぁ~!あまり野暮なことはしたくないけど、でもでも…あまりにももどかしいわっ!師範も咲ちゃんも奥手なタイプだし、少しくらい…背中を押してもいいわよね?)
そう思って甘露寺は、さりげなさを装って聞いてみた。
「咲ちゃんはキュンとする殿方はいるのかしら?」
唐突な問いではあったが、甘露寺が恋柱であるということと、普段から恋バナをしていることが幸いして、咲は特に不審には思わなかった様だ。